結論から言うと、職場で「できない人」が問題になったとき、それを個人の資質や性格の話で終わらせると、同じことが必ずまた起きる。
向き合うべきなのは「その人がなぜできないのか」だけじゃなくて、「なぜそういう状況が生まれ続けるのか」っていう構造の話だ。 先日、ある若いスタッフとの面談を通じて、そのことをあらためて感じた。
ある面談でのこと
若手スタッフから「一緒に働いている後輩が全然使えないんですよ、どうすればいいですか」という相談を受けた。 話を聞いていると、後輩が指示通りに動かない、新人にネガティブな発言をしている、注意しても次の日にはまた元に戻る、といった状況が続いているようだった。
そこで自分は「相手の気持ちも考えながら接してみては」という話をした。 するとその瞬間、相手は涙をこらえながら「真面目に働いているのが馬鹿らしくなる」と言った。
面談の場が一気に凍りついた。
自分がやったのは「正論を早く言いすぎること」だった。 その人のしんどさを先に受け止めもせず、いきなり相手への配慮を求めた。 内容の正しさより、順番の問題だったと思う。
「あいつが悪い」で一時的にまとまる、怖い構造
このケースで気になったのは、後輩1人が「チームの悪者」になっていた点だった。
職場ではたまにこういう空気が生まれる。 特定の誰かを問題視することで、チームが一体感を持ったように見える構図。 でもこれは、解決じゃなくてガス抜きに近い。
悪者を作ることで、一時的に不満の矛先がそろう。 でもその人が去ったあと、また別の誰かが標的になることが多い。 なぜなら、本当の問題は誰か1人の行動じゃなくて、職場の構造や仕組みの側にあることが多いからだ。
今回のケースで言えば、相談してきた若手スタッフは「先輩側」として扱われていたけど、実際にはキャリアがまだ浅く、指導の引き出しもそれほど多くない状態だった。 つまり、未熟な人が、もっと未熟な人をフォローせざるを得ない構造になっていた。 これは、どちらかが悪いというより、体制の問題だと思う。
「Z世代だから」という説明の罠
「最近の若い子はどう接すればいいかわからない」という声をよく聞く。 気持ちはわかるけど、正直これは当てにならない説明だと思っている。
世代ラベルで人を見ると、実際の差よりも「そう見える差」のほうが大きくなりやすい。 「あの子がああなのはZ世代だから」と思った瞬間に、その人個人を見ることをやめてしまう。
今回の若手スタッフの反応も、Z世代特有かというとそうは思わない。 どの世代でも、自分のしんどさを無視されたと感じたら感情は溢れる。 特に「真面目にやっている」という自負があるほど、それは強く出る。
世代より先に見るべきなのは、その人の立場・経験量・今置かれている状況だと思う。
「使えない」という言葉の解像度を上げる
「使えない」という言葉をもう少し分解してみる。
問題になっていた後輩スタッフの状況を聞くと、こんなことが起きていた。
- 指示された業務が定着しない
- 「やる気がない」とネガティブな発言をする
- 清掃などの基本業務を注意しても繰り返す
- 注意した翌日には元の状態に戻っている
これを「やる気がない人」と一言で括ると、思考が止まる。 でもそれぞれを分けて見ると、別の問いが出てくる。
指示が定着しないなら、指示の出し方が曖昧ではないか。「ちゃんとやって」ではなく、「この場所を、この時間までに、この状態にする」まで具体化されているか。
ネガティブ発言があるなら、職場への不満や不安が言語化されずに出ている可能性はないか。本人が安心して働けていない状態がないか。
注意がリセットされるなら、習慣化できない原因は何か。指示の理解不足か、体制的に定着しにくい環境になっていないか。
もちろん、本人の意識や姿勢の問題がゼロとは言わない。 でも「やる気がない」で止まると、対策が「もっとやる気を出して」しかなくなる。 それでは何も変わらないと思う。
正論は「タイミング」で毒にも薬にもなる
面談の話に戻すと、「相手の気持ちも考えてあげて」は内容としては間違っていない。 でも、その言葉が刺さってしまったのは、先にするべきことをしていなかったからだ。
人って、自分の感情を受け止めてもらえたと感じてから初めて、次の視点を受け入れられる。 逆に、自分のしんどさを見てもらえていないと感じている状態では、正論ほど刺さりが悪くなる。
「そうだよね、しんどいよね。真面目にやってるのに、フォローが増えるのは腹立つよね。」 をまず言えていたら、展開はだいぶ変わっていたと思う。
共感が先、整理は後。 この順番は、相手が若手でも経験者でも変わらない。
「中途半端な先輩」が一番しんどい
今回のケースで一番気になったのは、相談してきたスタッフのポジションだった。
その人は、チームの中では経験値が高い方に位置していた。 だから自然に「仕事を回す役」「後輩に教える役」が回ってきていた。 でも指導の経験はまだ浅く、判断を求められても裁量があるわけでもない。
これ、かなりしんどいポジションだと思う。 責任は増えるのに、引き出しはまだ少ない。 管理職がいても常にそばにいるわけじゃないから、現場で詰まったときの逃げ場がない。
こういう「中途半端に先輩」な状態で、難しいスタッフのフォローまで求められたら、感情が出やすくなるのは当然だと思う。 頑張っている人ほど、限界が来たときの反動が大きい。
だから「もっと頑張って教えてあげて」だけでは、この人への支援にならない。 必要なのは「あなたが全部背負わなくていい」という言葉と、そのための仕組みだと思う。
本当に必要だったのは「体制」の話だった
今回の問題を整理すると、こうなる。
表面上の問題:できない後輩と、それに疲弊している先輩の関係
その下にある問題:指導経験の浅いスタッフが、未熟なスタッフのフォローを担わされている構造
さらにその下にある問題:判断や指導を担える立場の人間が、現場に安定していないこと
最後の問題が解決しない限り、誰かが誰かのしわ寄せを受け続ける構造は変わらない。 感情的な摩擦も、繰り返される。
現場に「判断できる人が1人いるかどうか」の差って、思っている以上に大きい。 それがいることで、
- 困ったときに頼れる
- 指導が「個人の好き嫌い」ではなく「組織の判断」として機能する
- フォローの責任が1人に集中しなくなる
人間関係の問題に見えていたものが、実は体制の問題だったというのは、現場ではよくある話だと思う。
3段階で整理する、対応の順番
今回の経験をふまえて、似たような状況に向き合うときの順番を整理してみた。
第1段階:感情を受け止める まず本人のしんどさを言葉にしてあげる。 「真面目にやってるのに、フォローが増えて腹立つよね」をちゃんと言う。 これを飛ばすと、そのあとに何を言っても入りにくくなる。
第2段階:視点を上げる 感情が少し落ち着いてから、「誰かを悪者にする方向では解決しない」という話をする。 大事なのは「相手を許してあげて」じゃなくて、「矢印の向け先が違う」という伝え方だ。 個人の性格の話じゃなくて、何ができていないのかという事実ベースの話に切り替える。
第3段階:役割と体制を整理する 相談してきた本人に「何をどこまで担うか」を明確にする。 体制の話であれば、現場だけで解決しようとしない。 問題を上げる基準と仕組みを作ることも、この段階でセットにする。
「教える技術」より先に、「抱え込まない考え方」
教え方の技術は確かに大事だ。 「ちゃんとやって」ではなく具体的に伝えること。感情で注意するんじゃなくて事実で伝えること。 これは学べる技術だし、教えていける。
でも、それより先に必要なのは「自分が全部抱えなくていい」という考え方だと思う。
1人で解決しようとするから、感情が溢れる。 「自分がちゃんとしなければ」という責任感が強い人ほど、ここで消耗しやすい。
職場で誰かのことを「使えない」と感じたとき、それは一度立ち止まるサインだと思う。 その感情は本物だし、無視しなくていい。 ただ、その矛先をどこに向けるかで、その後の展開が全然変わる。
個人を責める方向に向けるか、状況と構造を見る方向に向けるか。 どちらを選ぶかで、職場の空気はじわじわ変わっていく。
問題が人にあるのか、仕組みにあるのか。 そこを見分けることが、リーダーや先輩の立場にいる人間に、たぶん一番必要な視点だと思う。
